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パタヤカップル―二人の異常な愛情
パタヤのとあるGOGOボーイで働くヌン(仮名/21歳)には、もう5年も付き合っている彼女がいる。彼女の名前は、キック(仮名/20歳)。二人は、田舎であるコンケンで育ち、出会った。ヌンは幼少の頃から身体も大きく、地元のムエタイジムに通い将来を期待されていた選手だったが、彼には夢があった。それはムービースターなること。ある日、見た映画の中でムエタイ出身の主人公に目を奪われたのが理由だった。


「俺もダラー(スター)になって映画やテレビに出たい」。単純な理由だったが、これも思い切りのいいタイ人の性格、ヌンはまずはとモデル事務所や、タレント事務所などに応募をしてみたが、タイの芸能界なんてコネと金がものをいう世界。そんなに簡単なはずはなかった。それでも諦めきれなかったヌンは、彼女のキックを誘い、二人田舎を飛び出しバンコクに出てきたのだった。

バンコクに出てきたとはいえ、田舎者には風当たりは冷たい、ましてや仕事もないという現実。友達のアパートを転々とし何も出来ない自分に歯がゆさを感じ始めていたとき、ある同郷人から誘われたパタヤ。何でも、観光スポットとしての顔を持つパタヤには、レストラン、バー、遊戯場と多くの歓楽施設が溢れているらしい。過去には、
ディスコの歌手から、目をつけられ芸能界デビューを果たしたやつがいるなんて話も聞いた。ヌンは、迷わずキックの手を取りパタヤへと向かった。


パタヤは夜の街だった、圧倒された。そして、同郷人の勧めだからと甘い考えで、ダンサーの仕事を承知した店は
GOGOボーイだった。「こんな仕事やれるわけないだろう!」。ヌンは当然断るつもりだったが、マネージャーの「ここは世界各国からいいお客さんが訪れる。タイの芸能関係者ももちろんのことだ。やって損はない・・・」という強引な誘いと、ダンスだけという約束、そして、何しろ金のない二人の現実から、働くことを決意した。当面の目標は、出来る限り短期間で俳優・モデル等の養成学校に行くお金を貯めること。そして、一方のキックも知人の誘いから、GOGOバーで働くことになった。


毎日繰り返される、ロウやムチなどを使った
過激なセクシーダンスショー。初めはダンサーとしての契約だったはずだが、ダンスのない時間には、男女問わず、指名されたお客の席についた。「何やってんだ、俺は…」。1ヶ月もすると我慢も限界の域だったが、それに耐えれたのは、同じくGOGOバーで働き文句なく仕事を続けるキックの存在だった。


そんな二人のやすらぎの空間は、深夜2時過ぎに仕事を終え、一息つく歓楽街通りの裏にある食堂だった。そして、二人の間での約束事、それは、仕事の内容、不平不満を一切お互いが話さないこと。このルールと二人の信頼関係が、ハードな仕事を続けていられる理由だった。日本では考えられないような異常とも言える恋愛模様。だが、ろくな仕事もない、ましてや学もない若者二人にとって、これが夢をつかむための最短距離の選択だったのである。



そして、運命の日はやってきた。二人が一般社会とはかけ離れた非日常的空間での生活を続けて、1年が経った頃だった。ヌンの店に現れたのは、日本は新宿2丁目で
オカマバーを経営するさつきママ(=ゲイ)。ヌンの過激なダンスショーと、幼い頃からムエタイで鍛え抜かれた美しくしなやかな身体、そして、彼が根っからの男好きではなく、仕事だと割り切ってこの店で働いているのだと感じとったさつきママは、彼を日本に連れ帰ることを決意する。


「あなた、日本に行ってうちの店でダンサーとして働いてみない」。「えっ、Really?」。契約はとりあえず半年、住み込みのダンサーでチップもあわせると、月10万バーツは簡単だろうというさつきママの話に、ヌンは驚喜した。予想すら出来なかった話に、キックも初めは驚きを隠せなかったが、提示された大金のサラリーを前に首を縦にふらずにはいられなかった・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



そして、3ヶ月が過ぎた。あいかわらずGOGOバーでやる気のないダンスを続けるキックは、毎日が憂鬱だった。ヌンからは、週に一度は電話があるが、それは愚痴の連続だった。お互いに仕事の話はしない。そんな約束事さえも会えない距離、そして、
異国の生活の前には仕方のないことだった。「さつきママのやつ、約束がぜんぜん違うよ…」。初めは住み込みという話だったが、ママはヌンをプライベートでは自分の彼氏とし、生活を共にすることを強要しているとのことだった。言葉も通じない、仲間もいない、そしてプライベートもない日々。



「でもこれも人生のほんの一部、今はヌンの夢をかなえるため私も頑張らなきゃね…」。隣の席を立ったキックは、羽織っていたジャージーを脱ぎ、再び延々と繰り返されるステージへとその足を向けた。日本とタイの時差2時間。パタヤ発のカップルは、今日もそのずれを感じさせることなく、互いの未来を信じダンサー生活を繰り返している。
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