|
これは、あるファラン(欧米人)の哀れな物語である。 彼の名前は、スティーブ(仮名=36歳)。イギリス人の彼は、母国で歯科医を開業している、いわば上流階級のひとり。金にも幾分の余裕がある。彼は、年の半分を仕事に費やし、またその半分を大好きなアジア、特に一番のお気に入りである常夏の国、タイランドで過ごしていた。
ここまで聞けば、誰もがうらやむ人生の楽しみ方といった感じだが、彼の悲劇の発端は、彼が俗に言う“デブ”
だったことである。
僕と彼が初めて知り合ったのは、パタヤ。僕の行きつけのバービアであった。このバーには、僕のお気に入りの女の子、クン(仮名=18歳)がいた。彼女は、色白で、まさに日本人が好みそうな可愛い顔立ちを持ったコラート出身の娘だった。
僕と彼女との関係は、仕事終わりでカラオケなどの遊びに行ったり、客がつかないときに僕の部屋に泊まりに来たりと、サバサバしたもの。
その日も、僕と話しているクンに、スティーブは一発で惚れ込んだ様子だった。僕もクンに、「さあ、仕事だよ!」と告げ、彼女を彼の元へと追いやった。クンは、客選びの上手な娘だった。いつでも、金持ちそうな男。やらせなくても金をくれそうなコントロールできる男への嗅覚を持ち合わせていた。
クンは、彼ともその得意の嗅覚を使って、三晩を共にし、計6,000バーツを稼ぎ出した。それでも、デブはデブ。クンは、彼が放つデブ独特の異臭をどうも我慢できなかったらしい。。彼女は彼をあっけなく切り捨てた。でも、それが、彼女の誤りだった…。
スティーブは、すっかり彼女に虜になってしまっていた。彼は、毎晩のようにバーに足を運び、一日に何度もの電話攻勢。彼女を必死に口説き落とそうとした。
だが、クン・クラスの可愛さなら自ら客を選ぶことはできた。しかし、毎晩のように彼に付きまとわれては、寄ってくる客も寄ってこない。仕事に差し支えが出てきたクンは、「あのプンプイ・ファラン(=太っちょ白人)を何とかして!」と僕に助け船を求めてきた。僕は、最初の晩のよしみから、彼に近づき彼を他のバーへと誘った。
そして、もともと惚れやすい性格のスティーブは、すぐに新しい娘を見つけた。
でも、その子は、友達の働くバーに遊びに来ているだけの娘。俗に言うフリーの娼婦だった。彼女は、巧みな話術と色目を使ってスティーブに近づいた。彼の目もすでにメロメロだった。ものの30分もしないうちに、彼は、「この子が気にいった。部屋に連れて帰りたい。」と僕に告げてきた。
僕は、それじゃあ・・と二人に別れを告げると、その日は自分の部屋へと戻った。でも、彼女に対し、何かひっかかるものを感じていた僕は、軽い忠告ではないがスティーブにメールを送っておいた。
「スティーブ。なぜだかは分からないがあの子には何か嫌な雰囲気を感じた。気をつけて・・」と。するとすぐに彼から返信がきた。「何を言ってるんだい?俺はそんなこと全く思わないよ。何で、君はそう思うんだい?」。
僕も再び返信した。「フリーの娘というのは、モノを盗んだり、警察沙汰に巻き込んだりと得てしてトラブルが多い。一応、忠告までに…」と。
嫌な六感というものは当たるものだ。僕はあくる日、スティーブに、「昨晩のセクシーギャルはどうだった?最高だった?」と彼にメールを送ってみた。そして10分後、彼から落胆にも似たメールが返って来た。。「ああ、確かに最高だったよ。でも少々高くついたね。あの子は、私が寝ている間に財布から20,000バーツをくすね、起きたときには、もう足跡のひとつもなかったよ」と。おそらく睡眠薬でも飲まされたのだろう。
僕らは、その日、彼女と知り合ったバーに行ってみたが、もちろん彼女の姿はなく、店の人に聞いても、我関せずといった様子だった。
ここで、新たな女の子を捜すのが普通の男。でも、スティーブは違っていた。なんとあろうことか、クンの元へと戻ったのである。彼は、クンの仕事上の見せかけの姿(=シャイ、素直、可憐といった姿)にゾッコンだった。そして、フリーの娼婦との嫌な体験が、彼の行動を以前よりさらにエスカレートさせた。
「私にはもうクンしかいない」。。でも、クンは相変わらずの、しかと状態。過剰な恋は、過剰な行動へとなった。スティーブは毎晩、彼女の出勤時間に合わせバーに赴いては、彼女の行動を逐一監視。そして、あろうことか、僕にその詳細メールを送り続けてきたのだ。
例えば、、「クンは、7時から9時の2時間の間に、すでに2度のショートタイムを終え、今夜3発目の相手はアメリカ人。推定50歳。」というふうに。。
そして、そのメールの内容も日を追うごとにどんどん粗悪なものになった。「彼女は、あの可愛い顔で、男を手玉に取り、金を奪い取るPretty Poisonだ」。「彼女は、ウソを言うのが商売だ」。「彼女は、恥らうという感覚を持ちあわせていない」。ついには「メス豚娼婦」呼ばわり。
クン本人に対しても深夜の無言電話。クンが、バーに連れて戻ってきた客に対しては、クンの悪口を言い、「その子はやめた方がいい」と余計なおせっかいを焼くなど、、、彼は、まさに、ストーカーと化した。
ねじまがった愛。。
そして、ついに、スティーブは、そのバーから出入り禁止となったが、それでも彼は隣のバーから彼女を監視し続けた。もう僕も見ていられなかった。だが、この国では、僕も所詮はよそ者、どうすることも出来なかった。
そして、とうとうバーの女の子達が立ち上がった。彼を懲らしめる作戦に打って出たのだ。ちょうど、その時期はタイが誇る一大祭り、ソンクラーン(水掛祭り)を迎える頃だった。
この祭りは、とにかく朝から晩まで、国民総出で、水を掛け合うといった単純な内容のものだが、その使用される水の量といったらハンパではない。とにかく飽きるまで水を掛け合う。誰が誰に水を掛けても文句は言えない。サヌック(=楽しい)な事が好きなタイ人、暑い国ならではのお祭りだ。
そして、そのソンクラーンも佳境を迎えたある日のことだった。あいかわらず、隣のバーからクンを監視し続けていたスティーブに対し、クンが久方ぶりに声を掛けた。
「もう、あなたに見られているのは我慢できない。冷たくした私が悪かった。今までのこと、ごめんなさい。私を許してくれる?また私を連れだしてくれる?」と。
彼は、あっけなく彼女の申し出を受け入れた。そして、彼はバーへの出入りを解禁となり、女の子共々、水掛け遊びに興じた。でも、それは、もちろんクンたちが張った伏線だったわけである。
彼女らが、スティーブに向けて放つ水鉄砲には、得体の知れない汚水、また、友達が、そのとき発病していたターデン(赤目)の膿み液も存分に含まれていたのだ。
ターデンといえば、タイ人が一度はかかると言われる伝染病の一種。当然、目が赤くなり、痛がゆくなり、膿みも出る。ひどい人になれば、目もろくに開けられない、嫌な病気だ。そして、この病気、発病者の近くで生活していただけで簡単に移されてしまう、おそろしく厭らしい病でもある。
そして、久しぶりの女の子との触れ合い、水遊びにも意気揚揚の当のスティーブだったが、あくる日から、ひどい腹痛と熱に見舞われ、更には、耳に入った汚水が原因で中耳炎も発症。そして、もちろんのこと、数日後には、ターデン(=赤目)にも冒された。
それから、彼は、ホテルから一歩も出られない生活が続いた。そして、ようやく彼が、回復した頃には、もう帰国の日が迫っていた。彼は、放心状態にも似た表情のまま、イングランドへと帰国した・・・。
しかし、その後のクンはと言えば、あいかわらずのしっかり者。スティーブとは、その後も、密に連絡を交わし合い、彼は、けなげにも彼女に毎月の仕送りを始めていた。。
真実は何も知らないままに・・・
クンは、すでに、他の常客との結婚を決め、今はその準備期間に入っている。仕事もしていない。彼の仕送りは、今、彼女と周りの友達の遊び代となっている。。。
|